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神威の書 : 第一章 : « 第三節 »

第三節

歩きながら。
つらつらと眺める風景……。
--- eden / b-3 ---
……。
僕が住んでいるこの区画は。
現在はまだ整備の途中段階で。
街並みの色合いが。
BG2値トーンだけで構成されている。
時折。
そのグラデーションに垣間見る…。
……エ・メ・ラ・ル・ド…。
何かが……。
…過(よ)ぎる……?
……………。
………。
…………記憶……?
……。
「………」
……………。
エデンの住人には。
世界がエデンになる以前の記憶がない。
それは。
エデンで生まれ育った者にはもちろん。
僕らのように。
神の日を生き残ったとされる者にさえ…。
……。

---*---* 神の日 *---*---


1989年8月15日……。
それは。
eden神が世界を支配する前の。
人間が。
霊長類最後の進化種族として。
君臨していた時代……が。
eden神の意志によって打ち崩された日。
その日には。
大きな地揺れと。
大きな洪水と。
大きな火が天地を引き裂き。
そして全てが崩れ去った……。
……。
eden神の意に添わぬ存在は皆。
(個人としての人も。)
(社会の体制も。建造物も。)
(個人の中の記憶も。)
(人による 業(わざ)は…。)
eden神の聖なる火によって焼かれた。
世界の。
個人の。
過去としての忌まわしい記憶は。
神の日に消滅した。
残された人々は空白になり。
eden神は。
人々に楽園を与えた。
人々はそれをエデンと呼び。
そこでedenを学び。
幸福な時を送るものである。
そうして。
やがて来る。
全なるeden神における業の完了の日を
迎えた時。
人々はかつてない至福を得るのである。

---*---* 知識 より *---*---

………。
つまり。
神の日以前には。
人間達が好き勝手にやっていた時代があって。
それは。
神の日に滅ぼされて。
代わりに。
eden神が。
すべてを支配する世界が出来た。
それが。
今のエデンであるということなのだが……。
……。
その神の日に。
記憶とやらを消されたらしく。
その神の日のことも。
エデン以前の記憶も。
僕たち(エデンに住む人たち)には。
ないというわけだ。
それは。
エデンで生きてゆく上で。
過去の記憶は忌まわしいとされ。
不必要であり。
邪魔であるから…というのが。
その理由で…。
だから。
記憶をすっかり忘れ去り。
edenの知識で満たされた。
新たな人格を身に付ける…。
それこそが。
幸福への道…と言われている…。
……。
それでも。
人の遺伝子の中には。
その神の日(火)にすら消し去られなかった。
深い部分があって。
それが。
何かの折りにふと。
現われることがあるらしい…。
それは。
エデンにおいて。
汚れ(けがれ)と呼ばれて。
忌み嫌われる。
だから。
汚れが現われた(記憶が蘇った)者…は。
即刻ヒーリング・センターに出向いて。
治療を受けなければならない。
………。
だが。
やがてはその汚れも。
遺伝子の中にすら現われなくなって。
そうすれば。
本当の意味で。
人世(ひとよ)(エデン以前の、人間が世界に君臨していた世の中)が終了し。
それが。
エデンの完成となり。
またそれが。
全なるedenにおける業の完了となって。
人々は。
今よりもっと。
幸福になると言われている……。
…………。
………。
僕はまだ一度も。
月に一度の健康診断でも。
汚れと言われたことはないのだが……。
……。
ふと過ぎる……。
……絵…とまでいかない……。
色の欠片と…。
…音の欠片……。
…………。
………。
……。
♪♪… and … ive … tha …♪
♪…… Sin … to the … fai … ful …♪
………。
……。
いたるところで聞こえる…hymnos…。
…hymnosを聞くと。
僕の中の色と音の欠片が。
クリアされるような気がする……。
………。
…だから…それは……。
…つまり……。
………。
…。
♪♪…and …ive…tha…♪
♪♪ Let … co……with th…ks…♪
……。
…ああ…。
だめ…だ……。
………。
思考が…。
…途切…れ…る……。
………………。
…………。
……。
「…ふ……」
短く息を吐く…。
……。
…考えても…。
……そう…だ…。
…辿って…どうする……。
そう…だ…。
辿ってもし…。
……それが…記憶だったら…。
それは……。
………。
…。
汚れになるだけ……。
………。
だから。
わからない方が…。
辿らない方が…。
…いい……。
………。
…。
「ふ…」
僕は。
もう一度短く息を吐き。
うつむき加減の視点を上げた…。
……。
「……」
その僕の視界に。
エデンの象徴。
聳え(そびえ)立つ翠壁が映った…。