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-- Sender:a-hata@a-2eden --
--- Time:23:17 08/15/2019 ---
-- Addressee:t-taki@b-3eden --
------ Subject:news ------
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Dear T-Taki,
取り急ぎ、メールで知らせることになった。
俺は、もう、動けない。
だから、約束の時間に行くことが出来ない。
そして、おそらく、2度とおまえに会うこともないのだと思う。
このメールがおまえに届くものかどうかも、俺には判断がつかない。
だが、俺がおまえに言っておきたかったことを、俺自身が確認する意味でも、こうして記録することにした。
俺が動けない理由は、後から触れるとして。
まず、おまえの作品が知られた理由だが。
それは、〝シナイ〟で少し触れた通り、UMC(アッパー・モスト・クラス)が、俺達の脳波傍受をしていたから、というのが、その理由だ。
では、何のためにか。
おまえの知りたい論点は二つだろう。
一つは。
何のために、UMCが一般民の脳波傍受をしているか。
また、傍受した結果、UMCは、どういうアクションをしているのか。
もう一つは。
今回、公開するつもりのないおまえの作品を、強引に(傍受していることが発覚する恐れがあるにもかかわらず)、取り上げようとするのはなぜか。
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まず、UMCが一般民の脳波傍受をしている理由だが。
それは、脳波傍受によって、エデンにとっての危険因子を捉えるためではないかと思う。そして、それを捉えた結果、UMCは、その危険因子をエデンから「消去」しているのではないか。
さらに、その「消去」の事実を隠滅するために、人々の記憶から、「消去」という事実を「抹消」しているのではないか。
では、ここで言う、edenにとっての危険因子とは何か。
それは、「疑う」という心理も含めた、「自己思考回路」の成立ではないかと俺は考えた。
エデンの民は、エデンにあり、そして、それが幸福であると信じて生きている。そして、そのことに疑いを持たずに、生きている。
「信じる」ということと「疑わない」ということは同義語になるだろうと思う。
そして、「信じる」ということも、「疑わない」ということも、一見、強い意志の様でいて、その実は実感している己なのではなく、自らが考える回路=自己思考回路を、なんらかの要因によって切断されてしまっている為に起き得る、心理状態なのではないか。
つまり、己の決断、あるいは実感などといった本来備わっている人間の自我と、外観を作る「表層意識」とが、結びついていないがために起きる、言わば、心理欲求であり、己の自我から生じた自己意識ではない、ということだ。
ちなみに、ここで俺の言う表層意識とは、エデンで詰め込まれた知識によって、言動する意識のことだ。
では、自己思考回路をどうやって切断しているのか。
UMCは、スクールで人格を養育する。
また、ヒーリング・センターでは、感覚異常者と称して、意識改善治療を行う。それは、誰でもが知っている。つまり公の事実だ。
俺は、このうちの後者、ヒーリング・センターでの改善治療に、仕組みがあるのではないか、と考えた。
それは、おまえも何度か供出の時に経験しているだろう。
こちらの脳波を受信した、センター側が、搬送波だけを返してくるという仕組みだ。
俺は、考えた。
返してくるのは、果たして搬送波だけなのか。
また、仮に返されるものが搬送波だけであるにせよ、それによって、何が起きるか。
結果的には、供出の場合は、作品データの消去ということになるわけだが、まさしくそれこそが、記憶消去のからくりそのものではないか。
なぜなら、「あったこと」が、頭の中から、なくなるということは、まさに「記憶喪失」と同質のものではないか。
そしてなおかつ、そこに、自己思考回路切断の仕組みもあるのではないか。
人間の記憶は、クラスタの集まりだ。だが、ただ集まっているだけでは、ひとつの記憶として、意味を成さない。それがきちんとクラスタチェーンになっているからこそ、人間は、記憶を呼び起こすことが出来る。
逆を言えば、クラスタチェーンが破壊されていては、記憶として呼び出すことが出来ないというわけだ。
そして、さらに俺が考えたのは、このクラスタ・チェーンが、単に、記憶を成立させているだけでなく、「自己思考回路」の成立にも大いに関係するのではないか、ということだ。
極論を言えば。
記憶の成立と自己思考回路の成立には、切り離せない事実があるのではないか。記憶そのものが、人間の起源にかかわるものではないのか。ということだ。
だがここで、人間の起源うんぬんに関してまで、論点を当てているひまはない。
そこで、現行のセンターが行っている、「搬送波を返す」と、いう作業に視点を当てて見る。
これは、おまえも知っている通り、もとあった領域に自分の搬送波を上書きされるわけだが、その結果、元あった、クラスタチェーンが破壊されてしまうのではないか。
そして、作品供出というよりは、個人のクラスタ・チェーンの破壊ということが、UMCの第一の目的なのではないか。
そして、ヒーリング・センターでの治療も同様に、クラスタ・チェーンを破壊することが目的なのではないか。
ヒーリング・センターは、密かに一般民の脳波を傍受し、危険因子を発見しては、ヒーリング・センターに出頭させ、改善治療という名の「破壊」を行っているのではないか。
クラスタ・チェーンを破壊することにより、記憶の事実上の消去を行う。
そして、なおかつ、自己思考回路の切断という現象が、エデンに生きることに、何の疑問も持たないといった、自己意識の空白状態を作る。
その上で、スクールにおいて、エデンとedenについての刷り込みを行う。
つまり、エデンの民は、改善と称して、外と内から、2重に「洗脳」を行われているのではないか。
現に、俺達は、エデンより以前の世代に生きていた事実があるにもかかわらず、その記憶を喪失している。それは、エデンの大義名分として、過去の忌まわしい歴史(人格、個人の記憶も含めて)は、エデンで生活するには全く必要ないことで、むしろその歴史や記憶がない方が、幸福に生きられるとされているからだ。
そして、それをエデンの民は、まるで信じている。
それが、幸福であると。
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二つ目の論点として、なぜおまえの作品が、取り沙汰されたのか。
俺が思うに、あの作品は、おそらく、パブリケーションされないだろう。
なぜなら、あの作品が一般民の目に触れれば、危険因子を増殖させるおそれがあるからだ。
その理由の、ひとつは。
あの作品が、「誰の目にも良い」と思えるものであるということ。
では、なぜそれが、いけないのか。
それは、「誰の目にも良い」ものを一般のクリエータが創ってしまってはならないからだ。「誰の目にも良い」ものは、最高者、つまりedenだけが創れるものでなくてはならず、人間は、必ずそれより劣っていなければならない。
わかるか。
そうでなくては、エデンは成り立たないのだ。
なぜなら、エデンは、edenの創ったedenの世界だからだ。その中で、誰もが納得するものを創れるのは、完全者であり、それが、唯一絶対神でなくてはならない。つまり、それは、eden一人でなくてはならない。
そうでなければ、最高者という概念が成り立たないのだ。
さらに、もうひとつ。
おまえのあの作品の中に広がるセカイは、edenにはない。
edenにない世界をおまえが創ることが出来、それが一般民の「誰の目にも良い」と感じられたならどうなるか。
それは、自分を最高者であるとするedenにとって、大変な脅威となる。
わかるか。
おまえのセカイが、一般民にとって「エデンより良い」ものになる可能性があるということが。それは、eden的発想で極論すれば、おまえが、「神」となる可能性があるということだ。
だから、UMCは、おまえの中に見つけたセカイをedenにとっての危険因子と判断した。
そして、おまえから取り上げ、つまり、おまえの中から、「消去」する決定をした。
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俺が動けない理由を書こう。
俺は、この世界が全てではないと思っている。
つまり、edenを最高者として感じていないということだ。
と、言うよりは。世界が平和であるのに、最高者という存在は必要なかろうと思っている。これは、つまり俺そのものが、edenにとって、危険因子であり、エデンから消去されるべきものであるということになる。
おそらく。
今まで、俺のような因子は、いたのだと思う。
そして、消去されてきた。
秘密裏にだ。
クラスタ・チェーンを破壊すれば、記憶を消去できる。「その人間がいた」という事実を、個人の中から、抹消できるわけだ。
そうして、エデンでは、それが事実になる。
つまり、「いた人間」がいなくなったとしても、存在する民の中から、記憶がなくなれば、最初から「いなかった」事に出来るというわけだ。
そして俺は、おそらく、消去されるだろうと思う。
そして、おまえの記憶からも抹消されるのだろうと思う。
消去されたら俺自身は、どうなるのか。
それが、かつてのエデン以前の世代で言う、「死」にあたるものなのかどうか。
それは、わからない。
ただ、edenから見れば、俺は「死んだ」ことになるのだろうと思う。
だから、このエデンでの存続が、なくなるのは確かだろう。
俺に対する消去のアクションは、実は、もう俺に届いている。
それが、俺がもう動けない理由だ。
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俺は、ヒーリング・センターからの再三の呼び出しに応じなかった。
それが、「消去」という手段を取られることになったのも事実ではあるが、逆に、俺のクラスタ・チェーンが、まだいくらか繋がっていることにもなるようだ。
俺には、かつての世代の記憶がわずかにある。
おまえには、かつての世代の記憶を重ねていた部分があった。
だから、必要以上にかまうことも多かったかもしれない。
最後に謝罪と感謝をしたい。
おまえ自身の幸運を。
by Hata Akira
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